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杢目とは...?
古今東西、さまざまな樹種に杢(もく)と呼ばれる景色が見られます。木の断面の木目をベースに、部分的にあらわれる複雑で鮮やかな模様を指します。木目と分けて杢目(もくめ)と表記され、如鱗杢、牡丹杢、葡萄杢、玉杢、縮杢など模様に応じてさまざまな呼称が定着しています。樹木の幹に外的刺激が加わることで生じるとされており、全ての材面にあらわれるわけではありません。明治45年(1912年)農商務省発行の書物『木材ノ工藝的利用』に杢目の定義が記載されています。
木材ノ紋理ハ眠芽(Schlafende Augen)分岐シテ同心環狀ニ生長セル瘤、菌絲繁殖ノ爲ニ生ジタル瘤、各種ノ損傷ニヨリ生長ヲ不規則ニサレタルニヨリテ生ジ又老木ノ幹形凹凸甚シキ部分殊に根元ノ擴張部ノ爲ニ生ズ凡テ年輪ノ走行不規則トナリ奇ナル模様ヲ生ズ之ヲ紋理又ハ杢目(Maser)ト稱ス。
明治 45 年(1912年)発行,『木材ノ工藝的利用』,第一節「木材ノ外觀」,第四項「紋理(杢目)」1~3行目
「瘤や根元に生じる断面の複雑な模様を杢目と称す」としており、「疵瘽ナリト雖モ利用上ヨリイエバ一種ノ貴重材」「其價格甚大ナルモノアリ」という記述がみられます。現代語にはない疵瘽の意味を検索したところ、熟語として出てこなかったためそれぞれの意味を調べました。
疵(shi)...揃っていないギザギザの傷。
瘽(kin)...①病む、疲れる②つとめる、はげむ(=懃)。
瘽の字の意味合いから、美しい模様の材面だけでなく生長プロセスにも着目している雰囲気、様子が感じられます。杢目という言葉は、そのような含みをもたせたニュアンスで捉えられていたのかもしれません。
また、文面に「木目」という表現がないことから、明治期には、「木目」という言葉が定着していなかった可能性があります。
呼称の定着する杢, 呼称すらないほど稀少な杢
これまで目にしてきた模様のうち、材面の研磨や仕上げ、撮影環境等の条件が揃っていた杢の中で、殊に美しい断面を複数枚掲載しております。(※その都度追記していく予定です)
泡瘤(あわこぶ)
虎瘤(とらこぶ)
玉杢(たまもく)
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鶉杢(うずらもく)
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神代欅,玉杢(たまもく)
たも玉杢
さいごに
正倉院宝物「赤漆文欟木御厨子」には欅の玉杢材が使用されています。その他、現在も中国で高値で取り引きされる紫檀や柿の木の変種である黒柿などが使用される宝物が正倉院御物に見られます。これら宝物は主に7世紀頃に製作されました。古くから数多く残る仏像には使用例がないことから、平面のデザインにあった造形なのかもしれません。英語圏では木目を意味する「grain」に対して、杢目は「figure」と呼ばれます。
材木の切り跡に過ぎない断面ですが、多岐にわたる鮮やかな見た目とその稀少性から、古今東西、時代をこえて評価されてきた、知る人ぞ知る嗜好品です。